大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

浦和地方裁判所 昭和47年(レ)11号 判決

控訴人 金塚一郎

右訴訟代理人弁護士 白上孝千代

被控訴人 荒井孝治

右訴訟代理人弁護士 菅野谷純正

主文

一、原判決を取消す。

二、被控訴人は控訴人に対し別紙物件目録記載の三および四の土地につき越谷市農業委員会に対する農地法第三条による所有権移転の許可申請手続をせよ。

三、被控訴人は控訴人に対し、前項の許可がなされたときは、右各土地につき浦和地方法務局越谷支局昭和四三年六月五日受付第一二五七八号条件付所有権移転仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をせよ。

四、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一、控訴人

主文同旨の判決を求める。

二、被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  控訴費用は控訴人の負担とする。

との判決を求める。

第二当事者の主張

一、請求原因(控訴人)

1  被控訴人は昭和四三年五月三〇日訴外日世興業商事株式会社(以下訴外会社という)に対し別紙物件目録記載の一および二の土地を、農地法による知事の許可を条件とし、訴外会社が同土地を他に転売したときは被控訴人は直接転買人のために農地法による知事に対する許可申請手続をなし、右許可がなされたときは直接転買人のために所有権移転登記手続をなすとの特約を付して、代金二七一万八〇〇〇円で売渡す契約をし(以下本件売買契約という)、訴外会社は同日被控訴人に対し右代金全額を支払い、同土地につき浦和地方法務局越谷支局同年六月五日受付第一二五七八号をもって農地法第五条による許可を条件とする条件付所有権移転の仮登記を経由した(以下本件仮登記という)。

2  その後昭和四五年六月三〇日別紙物件目録記載の一の土地は同目録記載の三の土地に、同目録記載の二の土地は同目録記載の四の土地にそれぞれ土地改良法による換地処分がなされ(以下換地処分前にあっては右従前の土地二筆を、換地処分後にあっては右換地二筆をそれぞれ一括して本件土地という)、昭和四七年九月一三日右換地処分に基づく変更の登記がなされた。

3  控訴人は昭和四六年四月三〇日訴外会社から本件土地を農地法による知事の許可を条件として代金六〇〇万円で買い受ける契約をし、同日右代金の内金として二〇万円を、同年五月一五日同じく内金として四八〇万円をそれぞれ訴外会社に支払い、昭和四八年二月一〇日本件仮登記につき権利移転の付記登記を経由した。なお、残代金一〇〇万円は所有権移転登記と引換えに支払う約定である。

4  ところで、昭和三八年一一月一二日最高裁判所第三小法廷判決は農地の移動についての知事の許可に関する所謂中間省略許可申請の特約は無効であるというが、右特約は有効と解すべきである。すなわち、知事の許可なるものは売主買主という許可申請の当事者に対してなされるという形はとるものの、右許可は売主側の事情を考慮してなすものではなく、買主が果して当該農地を譲り受ける資格を有するか否か、つまり買主が農地法の精神に従い当該農地を農地として効用を発揮させ得るか否かについて充分に審査したうえで買主が取得することを認めるものであるから、その性質が補完行為であるが故にその前提である所有権移転に関する契約は許可申請の当事者間で直接なされるものであることを要するという極めて形式的な思考方式を採る必要はなく、そのような直接の契約がなくとも売主が買主に対し直接転買人のために許可申請手続をすることを約していれば、転買人は売主を相手方として許可申請手続をすべきことを求め得ると解すべきである。さもなければ、現実には農地法による許可申請の当事者間に直接の売買等所有権移転に関する契約が存在しない場合が極めて多いことから、これらに与えられた許可がすべて無効ということになれば法的安定性に欠ける事態を招くことになり不当である。

5  よって、被控訴人と訴外会社との間の前記特約に基き被控訴人に対し本件土地につき、農地法第三条による許可申請手続をすべきことを求め、かつ右許可がなされたときは本件仮登記に基き所有権移転の本登記手続をすべきことを求める(本件仮登記は農地法第五条の許可を条件とする条件付所有権移転の仮登記ではあるけれども、訴外会社は法人の農地所有が極めて制限されていたためかような便法をとったものにすぎず、被控訴人と訴外会社との間の本件売買契約は単に農地法の許可を条件とする売買契約であるから、被控訴人は農地法第三条による許可申請手続をすべきことを求められればこれに応ずる義務があり、右許可がなされたときは本件仮登記に基く本登記手続をする義務がある)。

6  仮りに控訴人と訴外会社との間に本件土地の売買契約が成立したことを前提として右のような請求をすることが許されないとすれば、次のとおり主張する。すなわち、控訴人は昭和四六年四月三〇日訴外会社から被控訴人と訴外会社との間の本件売買契約における買主たる地位を代金六〇〇万円で譲り受けた。その代金の支払状況および本件仮登記につき権利移転の付記登記を経由したことについては前記3において主張したとおりである。

7  農地法による知事の許可を条件とする売買契約は一種の法定条件付売買契約であるから民法所定の条件に関する規定も類推適用され、その買主たる地位も同法第一二九条の類推適用により譲渡可能であり、また本件における右地位の譲渡の対抗要件については、本件売買契約における前記特約により被控訴人は訴外会社に対し予め訴外会社が買主たる地位を他に譲渡することを承諾し、または譲渡通知を免除したものである。

8  よって、控訴人が本件土地の転買人として前記のような請求をすることが許されないときは、第二次的に訴外会社から譲り受けた本件売買契約における買主たる地位に基づき被控訴人に対し、前同様本件土地につき控訴人のために農地法第三条による所有権移転の許可申請手続をなし、右許可がなされたときは本件仮登記に基づく所有権移転の本登記手続をなすことを求める。

二、請求原因に対する認否(被控訴人)

1  請求原因1、同2の各事実は認める。

2  同3の事実中、控訴人が昭和四六年四月三〇日訴外会社から本件土地を代金六〇〇万円で買受ける契約をした事実は認めるが、その余の事実は不知。

3  同4の主張は争う。

農地の移動についての知事の許可に関する所謂中間省略許可申請の特約の効力は、当初の売主と転買人との間に権利移転に関する合意が成立していない場合には無効と解すべきであることは控訴人主張の最高裁判所判決に照して明らかであり、本件においては控訴人と被控訴人との間に権利移転に関する合意が成立していないのであるから、本件売買契約における前記特約は無効である。そして、そう解さなければ農地の商品化を防ぐ農地法の目的に反するのであり、現に訴外会社は農地法第五条による知事の許可を得て本件土地を取得する目的で被控訴人から本件土地を買い受けたものであるが、本件土地が都市計画法による市街化調整区域に指定され、右目的を達成することができないことが明らかになるや控訴人に転売し、買受後僅か三年足らずで買値の二倍以上の利益を得たものであり、控訴人の請求は法の目的を潜脱しようとするものである。

4  同6の事実中、控訴人主張の登記の経由は認めるが、その余の事実は否認する。

5  仮りに、訴外会社から控訴人に対し本件売買契約における買主たる地位の譲渡がなされたとしても、本件仮登記は農地法第五条による許可を条件とする条件付所有権移転の仮登記であるから、訴外会社が有していた買主たる地位も農地法第五条の許可を条件とする売買契約上の買主たる地位であって、控訴人は右の地位を譲受けたものであるから、これと異って農地法第三条による所有権移転の許可申請手続を求めたり、その許可を条件とする本登記手続を求めることは許されない。

また、買主たる地位の譲渡においては譲受人は譲渡人に存した瑕疵をも承継するものであるところ、本件土地は都市計画法による市街化調整区域に指定されており、訴外会社は農地法第三条の許可に関しては無資格者であるから許可を受けることができず、したがってかかる地位を譲り受けた控訴人は訴外会社の右瑕疵を承継しなければならないはずであるが、控訴人が農業を営む有資格者であれば右の如き瑕疵は隠れてしまい、地位の譲渡の観念から外れることになるのであって、結局控訴人は訴外会社から地位の譲渡を受けることはできないというべきである。

三、抗弁(被控訴人)

被控訴人と訴外会社は本件売買契約を締結した後にその契約内容を以下のとおり合意の上変更した。すなわち、同契約による所有権移転については農地法第五条による知事の許可を条件とすること、被控訴人は訴外会社に対し右許可を条件とする所有権移転仮登記手続をなすこと、被控訴人は右許可がなされた場合には訴外会社に対し所有権移転の本登記手続をなすこと、訴外会社は本件土地を他に転売しないことと変更した。そして右契約内容の変更に伴い農地法第五条による許可を条件とする本件仮登記がなされたのである。したがって、被控訴人は訴外会社に対しては農地法第五条による許可申請義務および右仮登記の本登記手続に協力すべき義務があるけれども、控訴人に対しては同様の義務はなく、まして農地法第三条の許可申請義務や右許可に基づく本登記義務はない。

四、抗弁に対する認否(控訴人)

抗弁事実中、被控訴人主張の本件仮登記がなされたことは認めるが、その余の事実は否認する。

第三証拠≪省略≫

理由

一、控訴人主張の請求原因1および2の事実(本件土地の被控訴人より訴外会社に対する売買、仮登記ならびに換地処分に関する事実)はいずれも当事者間に争いがない。

二、そして控訴人が昭和四六年四月三〇日訴外会社から本件土地を代金六〇〇万円で買受ける契約をした事実は被控訴人の認めるところである(右のような本件土地自体の売買契約成立の事実は後に認定するとおり当裁判所の認めないところであるが、右のような売買契約の成立を前提とする控訴人の第一次の請求に関する限り、右の被控訴人の自白は当裁判所を拘束するこというまでもない)。

三、しかし、所有権の移転につき知事又は農業委員会(以下知事という)の許可を要する農地の売買契約において、買主がこれを第三者に転売したときには売主は直接転買人のために右許可申請手続をする旨のいわゆる中間省略許可申請の合意をし、右合意に基き売主と転買人とで右許可申請手続をし知事等の許可がなされても、売主と転買人との間に直接所有権移転の合意がなされない限り、所有権移転の効力を生じ得ないのであるから、このように効力を生じ得ないことを目的とする中間省略許可申請の合意は無効であると解すべきことは、当事者双方の引用する最高裁判所の判例とするところであり、当裁判所も右判例の見解は相当であると解する。

四、したがって、控訴人が訴外会社から本件土地を買受ける契約をしたことを前提とし、被控訴人と訴外会社との間の本件土地の売買契約における前記のような中間省略許可申請の特約に基いて、被控訴人に対し本件土地につき農地法第三条の許可申請手続をすべきことを求め、かつその許可を条件に所有権移転の本登記手続をすべきことを求める控訴人の第一次の請求は、右特約が無効であると解すべきであるから理由がない。

五、そこで控訴人の訴外会社から本件土地の買主たる地位を譲受けたとの主張に基く第二次の請求について判断する。

六、所有権の移転について知事等の許可を要する農地の売買がなされた場合において、買主がその買主たる地位を第三者に譲渡したときは、右譲渡につき譲受人が売主に対する対抗要件を備えるならば、売主は買主たる地位の譲受人に対して直接に当該農地の所有権を移転する義務を負担するもものと解すべきであるから、売主が買主に対して予めその買主たる地位の譲受人のために知事等に対する許可申請手続をすることを約したときは、右の合意は、前記のような当該農地の転買人のために知事等に対する許可申請手続をすることを約するいわゆる中間省略許可申請の合意とは異って有効であると解するのが相当である(昭和四六年六月一一日最高裁判所第二小法廷判決、最高裁判所裁判集第一〇三号一一七頁参照)。なお右のような合意を有効と解しても、知事等の許可を要する農地の所有権の移転は右許可がなければ生じないのであるから、必らずしも農地の商品化を来たすとは考えられず、農地法の目的に背馳するとは解せられない。

七、ところで前記のように、所有権移転につき知事等の許可を要する農地の売買において、売主が転買人のために許可申請手続をする旨を約する中間省略許可申請の合意をしても、売主と転買人との間に直接所有権移転の合意がなされない限り、転買人に対する所有権移転の効力を生じ得ないばかりでなく、右中間省略許可申請の合意自体も無効であるが、一方売主が買主の地位の譲受人のために許可申請手続をする旨を約する合意は有効であると解すべきこと右に述べたとおりであるところ、一般に契約当事者は特段の事情がない限り効力を生じ得ないことを目的とする合意や無効の合意をする意思はないと解すべきであるから、所有権の移転につき知事等の許可を要する農地の売買において、売主が買主に対して、買主が当該農地を第三者に転売することができ、この場合に売主は直接右第三者のために知事等に対する許可申請手続をすることを約したと外形上認められる場合には、特に買主がその買主たる地位を第三者に譲渡することを禁ずる趣旨が明確な場合でない限り、右の転売とは買主たる地位の譲渡を意味するものであって、右の合意は売主において、買主がその買主たる地位を第三者に譲渡することを予め承諾し、右譲渡がなされたときは直接右地位の譲受人のために知事等に対する許可申請手続をする旨の合意であると解するのが相当であり、また、右に述べた事柄と、右のような農地の売買にあっては知事等の許可がなされるまでは所有権は買主に移転しないのであるから右許可がなされる前に更に買主から第三者に当該農地自体を転売するときは他人の物の売買となることを考えると、右のような農地の売買につき知事等の許可がなされる前に買主と第三者との間に当該農地に関して売買契約がなされたときは、右の後の売買は、たとえ当該農地自体の売買であるような表現がとられていても、特に他人の物の売買である趣旨が明確にされている場合その他特段の事情が存する場合を除いては、農地自体の売買ではなく買主たる地位の売買であると解するのが相当である。

八、そこで本件についてこれを見るに、被控訴人と訴外会社との間の本件土地の売買契約公正証書である成立に争いのない甲第四号証の第七条には「買主は都合により買受物件を前四条の登記以前に第三者に転売することができる。右の場合売主は買主の要求に応じその第三者のため印鑑代等金銭的要求をしないで速やかに農地法の申請及び所有権移転登記手続を為すものとする」と記載されているのであるが、特に買主である訴外会社が買主たる地位を第三者に譲渡することを禁ずる趣旨で右売買契約がなされたことを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人は右甲第四号証の第七条により訴外会社に対し、買主たる地位を第三者に譲渡することを予め承諾し、右譲渡がなされたときは直接右地位の譲受人のために知事等に対する許可申請手続をし、更に直接右譲受人のために所有権移転登記をすること(および被控訴人より訴外会社に対する所有権移転につき知事等の許可がなされた後に訴外会社が本件土地を第三者に転売したときは、直接転買人のため所有権移転登記をすること)を特約したものと認めるのが相当である。

そして、訴外会社と控訴人との間の本件土地に関する売買契約の公正証書である成立に争いのない甲第五号証には、その第一条に「昭和四拾六年四月参拾日売主日世興業商事株式会社はその所有する左記物件を知事の許可を停止条件として代金六百万円で買主金塚一郎に売渡し買主はこれを買受け」云々と記載されており、その他全体的に本件土地自体の売買であるような表現がとられており、当審証人岸原実は本件土地を控訴人に転売したと証言し、当審証人今井義男も訴外会社から控訴人に対する本件土地の売買を斡旋したとの趣旨の証言をしているのであるが、特に右売買が他人の物の売買である趣旨が明確であったり、その他特段の事情が存することを認めるに足りる証拠はなく、かえって、当審証人岸原実は訴外会社と控訴人との間の売買について、「私の会社が買ってもまだ所有権移転登記を経てないので、転売の形になり法律上許されないので、許される方法で名義を移すつもりでした」と、右売買が本件土地自体の売買ではないことを示すような証言をしており、また、訴外会社と控訴人との間の売買においては、被控訴人より訴外会社に対する所有権移転につき知事等の許可がなされていないのであるから本件土地は売主たる訴外会社の所有とはなっておらず、登記についても被控訴人より訴外会社に対する本件仮登記がなされていたにすぎないにもかかわらず、前記甲第五号証は被控訴人と訴外会社との間の売買契約公正証書である甲第四号証と、印刷の不動文字の部分が第四条の一ヶ条だけ字句がわずかに改められているほかはすべて同一の不動文字からなる公正証書であり、特にその第一条には前記のとおり訴外会社は「その所有する」本件土地を控訴人に売渡す旨が記載され、その第四条にも訴外会社は控訴人に対し速やかに所有権移転請求権保全の仮登記をする旨が記載され、このように事実と相違し又は不可能な事項(本件仮登記につき移転の付記登記をすることは可能であるが、新たな仮登記をすることは訴外会社が所有権移転の本登記を経ない限り不可能である)を内容とする条項が存することから考えて、甲第五号証は十分な考慮が払われずに売主の所有名義に属する農地の売買に関する契約条項を用いて不用意に作成されたことが窺われるのであるから、甲第五号証の記載文言は訴外会社と控訴人との間の売買が本件土地自体の売買であるか買主たる地位の売買であるかを決定する有力な資料とはならないのであり、これらの点からすると、訴外会社と控訴人との本件土地に関する売買契約は本件土地自体の売買であるような表現がとられてはいても、訴外会社は本件土地の買主たる地位を控訴人に対し売渡したものであって、結局右甲第五号証と当審証人岸原実の証言によれば訴外会社は昭和四六年四月三〇日控訴人に対し本件土地の買主たる地位を代金六〇〇万円で売渡したものと認められる。

九、そして、控訴人が昭和四八年二月一〇日本件仮登記につき権利移転の付記登記を経由した事実は当事者間に争いがない。

一〇、そこで、被控訴人の抗弁について判断するに、被控訴人は、訴外会社と本件土地の売買契約をした後本件仮登記をするに際しその契約内容を合意の上変更し、本件土地の所有権移転の条件である農地法の許可を同法第五条による許可に限ることとし、かつ訴外会社は本件土地の転売をしないこととしたと主張するが、なるほど本件仮登記は前記のとおり農地法第五条による許可を条件とする条件付所有権移転の仮登記であるが、≪証拠省略≫によれば、訴外会社は姉妹会社の社員の宿舎を建てる目的で本件土地を買受けたのであり、したがってもともと農地法第五条による知事の許可を申請する予定であって、同法第三条の許可を申請する意思はなく、その許可を得る見込もなかったのではあるが、仮登記の内容については司法書士に一任した結果、単に農地法の許可を条件とする契約内容とは異って、右のような仮登記がなされたことが認められるのであり、被控訴人主張のような契約内容の変更の事実はなんらこれを認めるに足りる証拠がない。

一一、してみれば、被控訴人は訴外会社との間の本件土地の売買契約における前記認定の特約に基き、本件土地の買主たる地位の譲受人である控訴人のために、本件土地の所有権移転につき農地法第三条の昭和四五年法律第五六号による改正規定のかっこ書に基き越谷市農業委員会に対し許可申請手続をし、その許可がなされたときは本件仮登記に基く所有権移転の本登記手続をする義務があるものといわなければならない。

なお、右の本件土地の買主たる地位の移転については、前記のとおり被控訴人は予め訴外会社に対し買主たる地位の譲渡を承諾しているのであるから、改めて訴外会社より被控訴人に対しその承諾を求めあるいは譲渡の通知をする必要はないものと解する。

また、被控訴人は、本件土地は市街化調整区域に指定されて農地法第五条による許可は得られず、また訴外会社は同法第三条による許可を得る資格を有しないのであるから、結局訴外会社は本件土地につき農地法の許可を得ることができない瑕疵を有するのであり、控訴人は訴外会社から本件土地の買主たる地位を譲受けても右のような瑕疵を承継するから本件のような請求はできないとの旨の主張をするけれども、売買契約における買主たる地位の譲渡とは買主としての契約上の権利義務(本件のように代金が完済されたときは権利のみ)の譲渡をいうのであるから、農地法第三条の許可を得る資格がないというが如き一身専属的な事情はなんら買主たる地位の譲受人に移転しないこと多言を要しない。

なおまた、本件仮登記は前記のとおり農地法第五条の許可を条件とする条件付所有権移転の仮登記であるけれども、前記認定のとおり被控訴人と訴外会社との間の本件売買契約は単に農地法の許可がなされることを条件とするものであるから、右仮登記はその点で事実と符合しないものであり、そして、もともと所有権の移転について知事等の許可を要する農地の売買においては、知事等の許可は売買契約の効力を補充するいわゆる法定条件であって、民法上の条件とは異るのであるから、知事等の許可がなされることを特に条件としなくても売買契約は有効であり、ただ知事等の許可がなされるまでは所有権移転の効力を生じないにすぎないものと解すべきであり、したがってまた、たとえ農地法第五条の許可がなされることを民法上の条件とする合意がなされても、特に同法第三条の許可がなされたのでは所有権移転の効力を生じさせない意思の合致がない限りは、右第三条の許可がなされれば所有権移転の効力を生ずると解すべきであり、これらの点を考えると、本件仮登記は所有権移転の条件について前記のように事実と符合しない点があってもなお有効であると解すべきであると同時に、登記された条件である農地法第五条の許可とは異って同法第三条の許可がなされても条件が成就したものと認められるから、控訴人は本件仮登記に基き所有権移転の本登記手続をすべきことを求め得るものと解することができる。

一二、よって結局控訴人の被控訴人に対する本訴請求は正当であるから、右請求を棄却した原判決はこれを取消して控訴人の請求を認容すべきものと認め、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九六条第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 今村三郎 裁判官 鹿山春男 吉村俊一)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例